イギリスのパブの楽しみ方  食べ物・飲み物・文化としきたり

イギリスといえばパブの本場。気軽にお酒や食事をとることができるパブですが、どんな場所なのでしょうか。パブはとてもカジュアルに使えるのにクラッシックな雰囲気という不思議な場所でもあります。

ロンドンはもちろん、私の本拠地であるオクスフォードにも沢山のパブがあり、普段からとてもよく使っています。ちょっと喉が渇いたとき、手軽に食事をしたいとき、友達と会うとき、とても気軽に使えるのがパブなのです。

今回はパブで飲食できるものの紹介や、利用の仕方、そしてパブでのしきたりについてご紹介したいと思います。

パブとはどのような場所なのか?

パブというのはパブリックハウスの略称ですが、本場イギリスでもパブという呼び方の方が一般的です。イギリス中どの街にもパブはあり、とても小さな村にも必ず一軒はパブが見られます。イギリスでは地域社会のコミュニティーを支える重要なインフラなのです。

その昔、パブは紳士たちの社交の酒場という性格があったようで、席によって階級が分かれていた時代もありましたが、いまではもちろん誰でも気軽に好きな席に入ることができます。

一般的にパブには格調ある雰囲気がありますが、長い歴史を誇るパブも少なからずあり、木目調の美しい内装に、ヴィクトリア様式のアーンティックなインテリアが飾られているような落ち着いた空間である店が多いです。

実際かなりの老舗パブも少なくありません。たとえば日本で創業200年というお店は超老舗の部類に入り、敷居が高いのが普通ですが、イギリスにはそれをはるかに超える数百年の歴史を持つパブがゴロゴロあります。しかしいかに老舗でも、イギリスのパブは今を生きる私たちのために営業しており、建物が物語るその店の歴史とは裏腹に、敷居の高さは感じられません。

「この店にはルイス・キャロルが頻繁に出入りしていた」「ワトソンとクリックがこの店で毎晩議論をしていた」といった逸話があるパブも多く、店内のカウンターや柱の木目は時の流れとともに飴色に成熟しています。相当な歴史をもつ空間に、私たちは気軽に入り楽しむことができるのです。歴史あるものを妙にあがめ奉るのではなく、愛しながらもそこで日常を過ごすというのがイギリス流なのです。もはや歴史遺産と言ってもいい数々のパブは今も現役バリバリであり、私たちの日々の憩いの場として、またコミュニケーションの場として生きているのです。

パブでのオーダーの仕方

そんな素敵な空間であるイギリスのパブですが、どのように利用すればいいのでしょうか。多くのパブではオーダーはカウンターへ行って行います。まず店に入ったら、オーダーする前に席を取り、そのテーブルに書いてある番号を覚えておきます。カウンターに行ったらまずはどんなメニューがあるかをみて、何を頼むかを決めます。決まったらカウンターの店員さんと顔を合わせましょう。パブでのオーダーは“Hello!”や “Hi!”から始まります。

店員さんに料理やおつまみ、飲み物など、オーダーするものをきっちり伝えましょう。

「ステーキアンドエールパイを1つと、リークのスープを1つ‥‥‥」

「リークのスープにはプルーチーズを入れますか?」

「はい、お願いします」

「分かりました」

「それと‥‥ギネスをハーフパイントお願いします」

「ギネスをハーフパイントですね。他に注文はありますか?」

「ありません」

「テーブルナンバーを教えてください」

「25番です」

「25番ですね‥‥ええと‥‥21ポンド50セントになります」

店員さんはギネスのタップに手をかけ、ハーフパインとのグラスに注ぎ始めます。初めに出てくる泡をグラスから溢れこぼし、ゆっくりとグラスの縁までギネスを注いでくれます。料理には少し時間がかかりますが、飲み物はその場で受け取ります。そして支払いを済ませ、席でギネスを飲みながら料理を待ちましょう。レシートが出る場合は料理が来るまでなくさないようにしてください。

多くの場合、料理はテーブルまで運んできてもらえます。パブには味つけを整えるための調味料として、HPソースやケチャップ、モルトビネガー、マヨネーズ、塩、胡椒などが置いてありますが、テーブルに設置されている場合と、専用の棚がある場合、木の容器に入った調味料セットが運ばれてくる場合などがあります。店員さんが持ってくるのを忘れていることもあるので、必要なら声をかけましょう。

お分かりと思いますが、パブでは店員さんとのコミュニケーションでオーダーをします。それほど複雑な会話ではありませんので、英語が苦手な方もぜひ挑戦してみてください。特に何人分かのオーダーをまとめてする場合は、注文するものも多くなります。きっちりと伝わるようにしましょう。

パブで何を飲むか

パブで一般的によく飲まれるのはやはりビールなどのお酒ですが、特にビールの場合は何種類もの国産のイングリッシュビアを新鮮なまま提供してくれます。種類ごとにタップと呼ばれる水道の蛇口のようなものがあり、注文を受けるたびにそこからグラスに注いでくれます。

パブのビールグラスは1パイント(568ml)か、その半分のサイズのハーフパイントです。例えばギネスを1パイントでオーダーする場合は、“ a pint of Guinness please” というふうに、サイズとビールの種類を同時に伝えるといいでしょう。

しかしパブのビールは種類も多く、どんなものかよく分からないのが普通だと思います。ハイネケンのような外国のビールもありますので、知っているビールをオーダーするのも手ですが、好みを店員さんに伝えて選んでもらうのも一つの方法です。例えば「イギリスのビールのなかで、あまり苦味が強すぎず、軽い飲み口のものでおすすめのものはありますか?」などと聞いてみてください。

パブの飲み物はビールだけでなく、サイダー、スコッチウイスキーのような蒸留酒、スピリッツやカクテルまでいろいろあります。これについてはコラム「イギリスのお酒の文化」に詳しく記してありますので、そちらをご覧ください。また、トマトジュースやレッドブル、オレンジジュースなどのソフトドリンクが置いてあることもあります。特にトマトジュースは定番で、多くのパブに置いてあります。トマトジュースにリー&ペリン社のウスターソースをふりかけ、少しスパイシーにして飲むのはなかなか美味しいものです。

パブで食べられる料理はどんなもの?

パブで供される料理は “pub meal”とよばれ、手軽なイギリス料理やおつまみが中心です。パブの中には料理を提供していない店もあり、その場合はポテトクリスプスくらいしか置いていないのですが、比較的多くのパブではこうした料理が食べられます。

メニューはパブによっておすすめの得意料理があったりしますが、比較的定番なのはフィッシュ&チップスやイングリッシュ・ブレックファースト、ステーキ&エールパイやコテージパイなどのパイ料理、チリコンカルネなどですが、最近はサーモンやチキンのグリルなどを出す店も増えてきました。

また、日曜日には “Sunday roast”といって、ローストビーフやローストポーク、チキンなどを食べることもできます。これは日曜日限定のメニューで、イギリスでは日曜日に塊肉を焼く習慣があることからきた料理です。普通ビーフが多いですが、ワンプレートに切り分けられたローストビーフと付け合わせの野菜、そしてヨークシャープディングという大きなシュークリームの皮のようなものが乗せられ、上からグレービーソースがかかっています。

ランチやディナーなど、手軽に済ませたいときには、パブはとても重宝する存在です。特に留学や海外旅行などでは、頻繁に利用することになるのではないでしょうか。その味についてはコラム『イギリスの食文化』をご覧ください。一つ気を付けておきたいことは、夜はあまり遅くまで料理を提供していないことです。パブは深夜まで営業している店も多いですが、キッチンは9時頃にはクローズしてしまうので、その後は飲み物だけの提供になる場合が多いです。

パブでの御法度行為とは

パブはお酒を飲むところですが、日本の居酒屋とは雰囲気が違います。イギリスではパブで酔っ払って馬鹿騒ぎをする人はほとんど見かけません。騒いで発散をしたいのであれば、ディスコ(クラブ)などに繰り出すのが普通です。場の性質が分かれていますので、気をつけましょう。パブはパブリックハウス、すなわち公共の場であり、家族連れや老夫婦も来る場所。特に日本の居酒屋のように酔って大声でバカ騒ぎをしたり、醜態を晒すようなことはNGです。これらはパブのしきたりと言うより、パブに限らず、常に平静で凛としていることが、そしてその中に気の利いたユーモアを交えるのがイギリスの人々の気質であると理解するといいと思います。

すなわち、パブでは声をひそめて静かにしていなければならないということではありません。普通に談笑をするのは全く問題ありませんし、そこで出会ったお客どうしで話が始まることもあります。地元のおじいちゃんが集まって、昔話に花を咲かせているテーブルもあれば、学生やカップルのテーブルも目にします。またオクスフォードでは学者やインテリどうしが真剣に議論をしたり、熱心に文化的な会話をしている姿も目にします。いずれも「いいお喋りをする場」がパブという空間なのです。

ただし、こうしたパブのデフォルトの姿がある一方で、地域社会の質や状況、パブの価格帯などの違いにより、雰囲気にも違いがあることも覚えておきましょう。肉体労働者階級が多い地域や犯罪の多い地域にある安いパブ、それもサッカーの試合の直後などは、荒れた雰囲気になることもありますのでお勧めできません。

ここまでイギリスのパブの姿について説明してきましたが、なんとなくご理解いただけましたでしょうか。多くのパブをひとくくりに話してきましたが、実際のところそれぞれのパブには強い個性があります。パブの名もゴールデンライオンやホワイトホース、イーグル&チャイルド、ブルームーンなど、それぞれいわくありげな店名を冠し、その名にちなんだ看板を掲げています。

また、それぞれのパブは、建物の雰囲気や歴史の違い、エピソードや名物料理、ロケーションなどの特徴があります。皆それぞれお気に入りのパブがあり、”my pub”と呼んで通い、お気に入りの席まであったりします。皆さんもイギリスを訪れる際は、ぜひ色々なパブを試して居心地の良い一軒を探してみてください。

私自身も海外での勉強の主体がイギリスでしたので、講義の中でよくイギリスでの経験やエピソードの話をします。外苑ソーシャルアカデミーでは、留学や海外旅行に役立つ講座も開講していますので、お気軽に参加してみてください。

特に異文化体験をできるだけ深めたいと思っている方や、その土地の文化の核心に迫りたい方はドンピシャだと思いますので、ぜひ参加してみてください。また講座ご参加の際は、イギリスに関する質問も遠慮なくしてくださいね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました