イギリスの魅惑的で危険なスイーツの世界 その2 インパクト最強のイギリス菓子ラインナップ

「イギリススイーツの世界その1」では、なぜイギリス菓子にはとても甘いものが多いのか、その理由とスイーツに対する考え方の違いについて書いた。また、イートンメスやスコンの美味しさとともに、その油断ならぬカロリーについてもお伝えした。

さて、今回はその他のイギリスの食生活を彩るスイーツたちを紹介していこう。比較的食べやすいものから始め、だんだんインパクトの強いものを紹介していく。大トリを飾るキングとして君臨するスイーツは果たしてなんだろう?

りんごを使った国民的スイーツ アップルクランブル

最初に紹介するのはこちら、アップルクランブルという。ご存知の方も多いであろうが、スコンと並ぶイギリスのごく一般的なスイーツで、作るのも簡単だ。そもそもりんごはイギリスの代表的な果物であるが、そのリンゴを使った最もポピュラーなスイーツがアップルクランブルで、レストランのデザートとしてはもちろんのこと、スーパーにもカップに入ったものが売られている。

アップルクランブルに使うりんごは青々としたクッキングアップル。イギリスの食材のコラムでも紹介した「ブラムリー」である。これはとても酸っぱく硬いリンゴで、アクも強く、切るとあっという間に褐変(茶色く色が変わる)する。ブラムリーは生では食べられたものではないが、煮るとすぐに柔らかくなる。生食用のりんごは柔らかくなるのに時間がかかるが、こちらはすぐにトロリととろけていく。酸味が強いので、相当な量の砂糖を入れるが、これにより飽きのこない「甘酸っぱい」味が出来上がる。りんごのスイーツではこれが何より重要で、特にアップルパイや焼きりんごなどは、甘いリンゴで作るとボケた味になる。よくレモン果汁を入れるレシピがあるが、あれでは本来の美味さは出ない。日本でやるなら酸味の強い紅玉を使うのがいいけれど、それでもブラムリーの味の深さやとろみはなかなか出ないのである。

アップルクランブルの上にかかっているクッキーの顆粒のようなものは、小麦粉とバターを指先で混ぜ合わせたもので、ザクザクとした食感がこの菓子のアクセントになっている。このスイーツは食べやすいが、かなりの糖分を含んでいることをお忘れなく!

小麦とバターの味と香りを引き出した傑作 ショートブレッド

日本ではウォーカー社のショートブレッドが有名だが、イギリスには様々なブランドのものがあり、味や食感が少しずつ異なる。ウォーカーのショートブレッドも美味しいが、少しバターが重い。この写真のショートブレッドのように、もっと軽くてさっくりした歯触りのもの、バターのジトジト感がないショートブレッドも沢山あるので、イギリスに足を運んだらぜひ色々なブランドのものを試してみるといい。

ショートブレッドは素材の味を最大限に生かしたイギリス伝統菓子の傑作だ。さっくりした食感と、ホロホロと崩れていく生地。小麦の甘い香りと新鮮なバターの風味に、砂糖のほんのりした甘さ。シンプルだけにじっくりと深い味わいがある。

ついつい手が止まらなくなってしまうけれど、これは脂肪と炭水化物の塊なので、ほどほどにしないとあっという間に体重が増えてしまう。だからこれはミルクティーとともに少しだけいただく。ショートブレッドはとても素朴で上品な菓子だ。この菓子には飾り気のないイギリスの街並みと同じ気質が感じられる。もしかしたらもっともイギリスらしいスイーツかもしれない。

卵とミルクの存在感 カラメルカスタード

カラメルカスタードとは、我々日本人にとってのプリンである。それも昔ながらの卵とミルクで作った比較的重いプリンだと思えばいい。昨今日本で主流となっているような、とろける系のプリンではない。伝統正調の硬い卵プリンである。

イギリスにはプディングという食べ物が沢山ある。このプディングは、日本のいわゆるプリンのことを指しているのではなく、小麦粉と砂糖と卵などの生地を蒸したりオーブンで焼いたりした塊をさす場合が多い。イギリスのプディングにはサマープディングやクリスマスプディングなど種類も多く、様々な味がある。なかにはローストビーフの付け合わせにするヨークシャープディングというものもあるが、これなどはずいぶん様子の違うもので、イギリスのプディングの定義というのはなかなか難しい。

逆に日本のプリンのようなものは、カラメルカスタードという。また、タルト生地のうえにカスタードクリームやプリン生地を乗せて焼いたベイクドエッグカスタードというものもある。

カラメルカスタードはレストランのデザートなどでよく見かける。味は見た目そのままで特筆すべきこともないのだが、イギリスで食べるとなんとなく懐かしい味わいでホッとする。もちろんけっして不味くはないのだが、概して結構ボリュームがあるので、イギリスの重い料理のあとに食べるとお腹がいっぱいになってしまう。逆に小腹が減ったときなどはちょうどいいおやつだ。

起源は代用食!? キャロットケーキ

キャロットケーキはイギリスの伝統菓子で、すり下ろした人参が沢山入ったケーキである。14世紀には人参をたくさん使ったキャロットプディングなるものが作られていたようだが、市民権を得たのは第二次大戦中の物資不足のときだった。人参には天然の甘みがある。砂糖が貴重になった戦時下において、砂糖と卵を大幅に節約することができるキャロットケーキは、イギリス政府のプロモーションの効果も手伝って、一躍人気のケーキとなった。いわば代用食というべきものなのである。

何か代用食というとまずまずしい感じがするが、キャロットケーキはしっとりとした生地にシナモンなどの香辛料がほのかに香る、味わい深いケーキである。そもそも人参は手に入りやすい食材ではあるが、けっして粗末な食材ではなく、その自然の甘味はくどさのない上品なもの。それに少し甘みを足して焼き上げたキャロットケーキは、イギリス菓子には珍しく比較的ヘルシーなスイーツだと言えよう。

人参のスイーツというのはあまり馴染みがないかもしれないが、最近は人参の100%ジュースなども見かけることを考えれば、そう違和感はないはずだ。今回紹介するスイーツの中では、もっとも罪悪感のないスイーツかもしれない。カフェなどに置いてあることもあるので、一度試してみてはいかがだろうか。

甘い菓子の大関格 ピーカンパイ&クローテッドクリーム

ピーカンパイはもともとアメリカで生まれたと考えられているが、その後イギリスに入り、いまではあちこにのカフェテリアなどで見かける定番スイーツになりつつある。しかもイギリスではイギリスならではの素晴らしい食べ方を編み出した。それはこの甘いタルトにデボンシャークローテッドクリームを添えることだ。この組み合わせは実によく合う取り合わせである。

タルトのうえに重くて甘い生地が乗っていて、さらに上にはピーカンナッツがたくさん並べられている。生地は砂糖とシロップ、卵、そして砕いたピーカンナッツなどで作られており、とても甘いうえにぎっしりと詰まった食感だ。これだけでもなかなかヘビーだが、クローテッドクリームを一緒に食べることで、完膚なきまでの重厚さが演出される。すなわちこの甘さにさらに脂分のコクを加えて食べるのである。

実のところこの組み合わせは実に美味い。とてもヘビーだが、えもいわれぬマリアージュを生み出している。パイの甘味が土台となって、クローテッドクリームのコクを引き出し、実に豊かな味わいを醸し出す。そしてピーカンパイ単独で食べるよりも、不思議と食べやすい。オーストリアではザッハトルテに生クリームをたっぷり添えるが、組み合わせとしてはそれに少し近い。もっと油脂分を重くコッテリさせた感じと言えばいいだろうか。あるいは甘いスイートポテトにバターをたっぷり乗せた感じにも少し似ている。

ピーカンパイはそんなに大きくないひと切れで供されることが多いが、満足度十分の菓子である。カフェで見つけたら必ず頼んでしまう。

イギリスの激甘スィーツの覇王 スティッキートフィープディング

イギリス菓子の大トリを飾るのは、やはりステッキートフィープディングしかないだろう。これは甘い生地にさらに甘いシロップをかけた超濃厚なスイーツだ。初めて食べたとき、あまりの甘さに「うーん、これはすごいな。。」と半ば唸り、半ば絶句したものだが、このプディングには不思議な魅力がある。たしかに極めて甘いのだが、その甘さには独特の上品さとコクがあり、妙に手が止まらなくなる。特に出来立ての熱々のところを食べると非常に美味い。スティッキートフィープディングはイギリスでは人気のスイーツで、レストランで見かけることもあるし、スーパーマーケットにも出来合いのものが沢山並んでいる。

スティッキーというのはベタベタするという意味であるが、他方のトフィーというのは砂糖とバターを煮詰めて作った一種のバターキャラメルのようなイギリスの伝統菓子のことである。トフィーもかなり甘い菓子だが、口の中でホロホロと崩れる独特の食感と、バターの乳脂肪の味がストレートに楽しめる素朴なスイーツだ。日本で言えば薄荷糖のような、昔ながらの真面目な駄菓子といった位置づけのものである。

さて、スティッキートフィープディングのベースとなる生地であるが、メインになるのはドライデーツで、そのほかに小麦粉と砂糖、バターなどを使う。デーツというのはかのドライフルーツのことで、要は乾燥させたナツメヤシの実である。

スティッキートフィープディングは、このデーツを大量に練り込んだしっとりとした生地をまず作る。多くの場合は混ぜた材料を蒸し焼きにしてプディング部分が完成する。このプディング部分はそれほど極端に甘いわけではない。その上からたっぷりとかけるトフィーソースが甘いのだ。このソースはバターと砂糖とクリームを煮詰めて作る。チェルシーとかウェルターズオリジナルというキャンディーと少し似たような風味がある。このトフィーソースを、プディング全体にたっぷりとかけ、生地に染み込んだところを掬って食べる。

このスティッキートフィープディング一個でディナーの最後をしっかりと締めくくってくれる力がある。一撃で誰をも満足させる破壊力がある。熱々のプディングにバニラアイスを添えて出てくることもあるが、アイスがあると少し爽やかに食べることができる。好き嫌いはあるかもしれないが、イギリスに行ったらぜひ一度は挑戦してみてほしい。スーパーのスイーツコーナーなどにも売っているので、少し重いがお土産にもいい。

イギリスのスイーツの世界、いかがでしたでしょうか。イギリスの生活の中でこれらのスイーツたちは外すことができない食文化を担う役者たちである。旅行や留学などで訪れるときは、現地の文化や習慣に首元までどっぷり浸ってみることをお勧めする。そして自分の既存の価値観や感覚の中だけで美味い/不味いと判断するのではなく、その味の意味を考えることで、イギリスの人々の価値観や考え方を理解することができる。イギリスの激甘スイーツにも意味があるし、その感覚の中で食べることができれば自分の味覚の幅が広がり、異文化の良さが分かるようになる。それはまた、自分自身の幸福の幅が広がることにほかならないのである。

本ホームページでは、イギリスの食材やお酒、パブなどを紹介している記事もあるので、ぜひさらに参考にしていただきたい。

また、こんなふうに文化的な側面を深掘りすることが、海外の面白さを最大化することにつながると私たちは考えている。せっかく高いお金を払って旅行や留学をするのだから、異文化体験を普通よりはるかに深いレベルで味わい、異国の面白さや醍醐味を極限化することが大切だ。私自身オックスフォードで研究していた経験から、講義でイギリスのことをよく話す。普段の私の授業は一般の方々は参加できないが、2ヶ月に一度ほどイギリスを中心としたワークショップを開催しているので、イギリス好きの形、イギリスに興味のある方はぜひ誰参加してみてほしい。

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