著者 : 岡田麻衣(GSAアソシエートフェロー)
あなたはポルトガルという国にどのような印象を抱いているだろうか?これといったイメージがないという方も少なくないだろう。これまで日本人にとってポルトガルは比較的マイナーな旅先であった。
GSAではこれまでも海外滞在や異文化理解を中心とする「旅の作り方」をお伝えしてきたが、これまでは主にイギリスの話題が中心だった。今回は同じヨーロッパでも、少し毛色の違う旅先として、ポルトガルの魅力をご紹介したい。ヨーロッパ旅行の目的地と言えば、イギリス・スペイン・フランス・ドイツの五カ国が圧倒的な人気を誇っている。しかし、最近旅のターゲットとして新たな魅力を放っているのがポルトガルなのである。
日本から遠く離れたユーラシア大陸最西端の国ポルトガル。歴史的にみると、エンリケ航海王子やヴァスコ・ダ・ガマ、マゼランといった英雄たちの活躍により、大航海時代の先駆けを担った国でもある。今回はその中でも首都リスボンを中心に、その魅力をお伝えしていきたい。
リスボンはヨーロッパの国々の中でも最西端にある首都で、ポルトガルの空の玄関口とも呼ばれている。かつては北部のポルトとならび海の玄関口でもあった。首都であり玄関口でもあるといえば、とても賑やかな雰囲気の街が想像できるかもしれない。しかし、ひとたびリスボンの街に繰り出してみると、そこはヨーロッパの古き良き建物が立ち並び、穏やかで優雅な時間が流れている。今回はそんな美の街リスボンでのおすすめポイントをたっぷりお伝えしていきたい。
ポルトガルの基本情報
日本の約4分の1の国土に、約1000万人が暮らしているポルトガル。スペインと大西洋に囲まれており、ユーラシア大陸最西端の国だ。歴史的に見ると、なんといっても大航海時代のパイオニアをして世界の頂点に君臨した時代もある。また、アジアとの接点をいち早く持った国でもある。
日本から飛行機で約20時間、残念ながら今の段階では直行便はなく、別の国を国を経由する必要がある。リスポン内はバスや地下鉄、トラムなど交通機関が充実しており、観光していく際に不自由はない。どんな年齢の方でも楽しむことができる観光地であるといえる。
リスボンの街並みの魅力
リスボンは地区によって印象が異なり、それぞれが魅力的だ。カラフルな建物が並ぶ地域もあれば、赤屋根が並ぶ地域、タイルが印象的な地域など様々である。その中でもひときわ印象的なのは、色とりどりの建物が立ち並ぶバイシャ、シアド地区。
まるでお花畑のような黄色やピンク、青などが濃淡も様々に、フォトジェニックな街を彩っている。同じ色の建物が林立することはなく、パステルカラーのピンクや黄色、ミントグリーンといった優しい色合いが交互に続いていくため、歩きながらやさしい気持ちになっていくのを感じた。日本にはこんなカラフルな壁の建物が続く街並みはない。私もお気に入りの色の壁を見つけては写真撮影会を楽しんだ。しかし、この色彩豊かな街並みは昔からずっとそうだったわけではない。リスボンは17551年に大地震に見舞われているのだが、その復興後にカラフルに施すのが流行ったそうだ。
一方で「アルファマ地区」はリスボンの中でも災害によるダメージが少なく、白壁に赤屋根という古き良きヨーロッパの街並みが残っている。
アルファマの街並みは、ほかの地区とは異なり壁すれすれを行くトラムや、洗濯物がはためいている哀愁漂う雰囲気が魅力。まるでタイムスリップしたまま時が止まっているような不思議な感覚が押し寄せてくる。震災に遭ってもその姿を変えることなく、古き良きポルトガルを伝え続けていくアルファマ。その貫禄に魅了されるばかりだった。歩いたりバスに揺られたりしながらその街並みの変化を楽しむことができるので、自分のお気に入りの街並みを探してみてはいかがだろうか。
アズレージョ(美しきポルトガルタイルの文化)
街並みに一味付け加えているのは「アズレージョ」というポルトガル伝統の美しいタイル。このタイルはかつてこの地を支配していたイスラムの文化に由来している。
タイルには輻射熱を軽減させる効果があり、南欧の暑く乾燥した日差しの中で、建物内をひんやり涼しくさせるために使われていた。リスボンには「アズレージョ美術館」があり、アズレージョがポルトガルに初めてやって来た時代のものからモダンなものまで、そのデザインや色合いの変遷を見ることができる。
何枚ものタイルを使って幾何学模様や動植物、宗教画や庶民の暮らしなどを描いた作品が多く、その時代ごとの世の中の流れや流行りも見ていくことができる。色は青がベース、そこに黄色が使われている時代もあれば、青の濃淡だけで描いている時代もある。多くのものは青のみ、もしくは青黄の組み合わせで、色味が大きく変わることはないのだが、アズレージョには独特の豊かな表現があり、約2時間全く飽きることなく見入ってしまった。
かつてこの美術館は修道院だったのだが、ここには必ず訪れてほしい場所がある。美術館の見学は一階から始まるのだが、一階の最後に位置しているチャペルをぜひ見逃さないでいただきたい。
青の濃淡のみで描かれた宗教画に、豪奢な装飾の祭壇。美しい青に華やかな金、窓から注ぎ込まれる自然光が光と影を創り出し、チャペルの荘厳さを一層高めている。チャペルの内部では参拝者の座席に座ることもできるので、じっくり腰を据えてキリスト文化とイスラム文化の融合をゆったりと楽しむことができる、そんなスポットになっている。
ジェロモニス修道院
16世紀に着工し、300年雄歳月をかけて造られたジェロモニス修道院。ここは大航海時代の繁栄を伝える文化遺産で、1983年、ポルトガル国内で初の世界遺産に登録されている。
建物のあらゆる部分に施された細かく豪華な彫刻が印象的で、この堂々たる姿はマヌエル様式建築物の最高傑作として知られている。特に見どころなのは中庭を囲む回廊である。柔らかいベージュと中庭の緑、そして空の青が何とも言えないコントラストを演出している。ここも細かい装飾が施されており、太陽が差し込むことでその模様が映し出され、光と影もまた楽しむことができる。さらに、2階構造になっている子の回廊。1階と2階では建てられた時代も設計者も違い、デザインが全く異なっているのも興味深い点かもしれない。
大航海先駆けの国、ポルトガルのその歴史を堪能するには外してはならないスポットだ。
サンタルジア展望台
こちらは長い坂を上り続けた先にあるアルファマ地区の展望台で、眼下に広がる古き良きポルトガルの赤屋根が立ち並ぶ姿を一望できるスポットだ。
ただ眺めるだけではなく、そこのベンチは美しいタイルで装飾が施されており、ポルトガルの景色と芸術を一度に堪能することができる。街を貫くテージョ川も見ることができ、リスボンがどのような街であるのかよくわかる場所だ。写真を撮る観光客や、コーヒー片手に優雅に話し込む人々がたくさんいるにぎやかな場所でもある。
人気のスポットのため、写真を撮るにはベンチを確保することが必須。そろそろ写真撮影大会が終わりそうだな…という雰囲気のグループを見つけたら、いなくなった瞬間にベンチを確保するのがコツだ。
今回はリスボンの歩き方についてご紹介してきたが、ポルトガルにはヨーロッパのなかでも独特の雰囲気があることがあなたに伝わっていたら幸いである。ぜひノスタルジックなリスボンの街路と、独特の色彩を放つ文化を感じに訪れていただきたい。次回はそんなリスボンで出会える美味しい食べ物についてご紹介したいと思う。
外苑ソーシャルアカデミーでは、海外の歩き方や異文化を探求するイベントを開いている。こうしたテーマが好きな方ならどなたでも大歓迎なので、ぜひ気軽に参加していただきたい。ご興味のある方は、本ホームページの定例講座をチェックしてみてほしい。
コメント