「ライトな起業」のススメ

こんにちは、GSA理事長の中村です。

私は株式会社ネットプロテクションズが主催する Think Flat Camp という中高生向けの教育プログラムの運営委員を務めています。2023年度は「つぎのアタリマエを実現するビジネスプランを構築せよ」というお題のもと、40名超の中高生が5日間を通して白熱した議論を重ねました。多くの学生がビジネスを作る面白さや、仲間の大切さを学んでくれて、プログラムは大成功に終わりました。

私は全ての若者に起業を志してほしいと思っています。前回の記事「幸せな生活を送るためにはどのくらいの年収が必要なのか」で、目安として世帯年収1000万円〜1200万があればそこそこの生活ができることを記事にしましたが、残念ながら就業している会社からその収入を得ることは難しい時代であり、また、税金や社会保険料などがどんどん上がる見込みです。(日本経済が現在どういう状況なのかについては別の記事で取り上げたいと思います)そのため、副業としてライトに起業するのはこれからの時代には必要な選択肢だと考えているからです。

しかし、多くの若者にとって、起業は心理的ハードルが相当高いものと思います。また、勇気のある人が起業をしたとしても、リスクの高いやり方をすることで不幸になってしまった人を数多く見てきました。今回の記事では「ライトな起業のススメ」と題して、世に蔓延る起業の誤解を解いていきたいと思います。

「起業」とは何か?

「起業」と聞くと、会社を設立して立派なオフィスを構え、カリスマリーダーとしてたくさんの従業員を統率するといった大そうなイメージを持つかも知れません。しかし、それは「起業」の一部の形に過ぎません。例えば、個人事業主としてWEBサイト構築を仕事にしている人は、株式会社を設立せずに自宅をオフィスの代わりに利用し、従業員も自分一人なのでリーダー的気質でなくても仕事ができます。それでも業を興している以上、それは立派な起業なのです。

起業とは、世の中に価値を届けることです。登記することでもないし、オフィスを構えることでもありません。在学中や現在の仕事を継続する中で、副業で儲けることができたなら、(悪事を働かない限り)それは世の中に価値を届けられたということであり、起業と胸を張って良いのです。

小規模に始めることが大成功の条件

「いやいや、私は小規模なビジネスをやりたい訳ではない。ベンチャーを立ち上げて大きく成功させたいんだ。」という方のためにもう少し説明します。『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP)田所雅之氏によると、成功したスタートアップの約7割は、会社員の副業から始まっています。

例えば、「価格.com」創業者の槙野光昭氏は、同業当時はパソコン周辺機器メーカーに勤務しており、営業として秋葉原の各電気店の店頭価格を頻繁にチェックしに行っていていました。その際に各店舗でのパソコンパーツ価格を一覧でチェックできれば便利だと思いつき、メーカーに勤めながらスモールビジネスとして「価格.com」のサイトを立ち上げました。

ソーシャルゲームで有名なグリー株式会社は創業者の田中良和氏が当時勤めていた楽天株式会社にて会社員生活を続けながら、土日などの勤務時間外に趣味でSNSの「GREE」を開発したことから始まりました。

iPhoneで有名なアップルも、スティーブ・ジョブスはアタリで夜勤の仕事をし、スティーブ・ウォズニアックはヒューレット・パッカードでエンジニアとして働いていました。2人は空いた時間にガレージでコンピューターを作り、それが後に現在のアップルとなったのです。

Instagramの共同創業者ケビン・シストロムは旅行関連のベンチャーであるNextstop.comでプロダクト・マネージャーとして働きつつ、夜や週末に独学でコーディングを学んでいました。やがて位置情報アプリを開発し、それが後にInstagramになりました。このような例は枚挙にいとまがありません。

なぜ小規模に始めることが成功の鍵なのか?

ではなぜ、小規模に始めることが成功の鍵なのでしょうか。いくつか理由がありますが、大きな点を3つ挙げたいと思います。

1.成功の半分は「時期」で決まるから

2012年、Googleが Google Glass というPC付きメガネを発表して大変話題になりました。当時はまだウェアラブル・デバイス市場は盛り上がっておらず、利便性やデザイン、プライバシーの問題など様々な問題が市場からフィードバックされ、Google Glass プロジェクトは終了に追い込まれました。2015年4月、Google Glass の失敗を活かして、Appleが初代 Apple Watch を発売し、今や一般に深く浸透するまでに至りました。

また、今や誰もが知るslackやzoomですが、これほどまでに一気に市場を獲得できた理由はもちろん利便性や通信品質などの技術面、利用開始までのハードルを下げた戦略面などにおいて秀でた部分があったのは間違いありませんが、新型コロナウィルスによるリモートワーク需要がそれらの企業努力を大きく後押ししたこともまた事実です。

ここで注目すべき点は、「Google Glass プロジェクトは戦略を誤ったのか?AppleやSlackやzoomの成功の主要因は素晴らしい戦略にあったのか?」ということです。実態としては、戦略上の優劣と同じかそれ以上に、製品・サービスを市場に投入した時期にビジネスの成功要因が隠されているのです。

小規模ベンチャー企業や中小零細企業についてもこれと同じことがいえます。政治動向や経済状況、社会的に注目されている課題、技術革新、消費トレンド、などの複数の要素によって日々変わる「時期」を適切にキャッチするためには、ビジネスの場から退場(倒産)しないこと、つまり、筋肉質な体制を維持しながら虎視眈々とチャンスを伺うことが重要なのです。

2.市場からのフィードバックを製品・サービスに反映することができるから

新しい製品やサービスを市場に提供するときに重要になるのが「PMF(Product Market Fit)」が達成されているかどうかです。平たくいうと「市場が求める製品・サービスになっているか?」ということです。

製品・サービスを世に届ける2つの対照的なアプローチについて考えてみましょう。一つは構想から一気に製品・サービスを作って市場に浸透させていくやり方です。二つ目は小さく始めて、市場からの反応を製品・サービスに還元することでスクラップ&ビルドを繰り返しながら品質を高めていくやり方です。

既に市場のニーズが明らかな場合は前者のやり方でも問題ないのですが、大抵の場合、そのようなカテゴリーは大企業が大きな資本を投じて「規模の経済」での戦いを仕掛けています。その結果、良いものが安く大量に市場に供給されており、小規模ベンチャー企業や中小零細企業が入る余地はないことがほとんどです。

一方、後者のやり方は小規模ベンチャー企業や中小零細企業に向いています。大企業がまだ発見していない市場のニーズを発見し、オリジナリティのある製品・サービスで勝負することができるからです。ビジネス規模を拡大すると、製品・サービスを変更するのが難しくなるものです。そのため、柔軟な体制を維持することが重要なのです。

3.「本当にやりたいこと」に集中できるから

大きな勝負を仕掛けて、当たったらかっこいいし大儲けです。しかし、外れたらそれまで投下してきたお金と時間は無駄になります。お金が尽きてしまい、倒産の危機に直面するケースも少なくありません。起業家としては倒産はなんとしてでも避けたいと考えるため、お金を儲けるための別のビジネスを始めます。しかし多くの場合、それは「本当にやりたいこと」ではなく、起業家としての幸せとは程遠くなるものです。

一つ例を挙げましょう。ある起業家が新しい価値を世に提供できる革新的なアプリを思いついたとします。誰に話しても評判が良く、成功に確信を持った起業家は早速そのアプリをリリースしようと決意します。しかし、自分にはアプリを作る技術がありませんし、プログラミングができる友人もいません。そこで、1000万円ほどの借金をしてアプリ制作業者に依頼することにしました。開発ディレクションや営業活動などにも力を入れないといけないので会社も辞めました。かっこいい会社のロゴマークを作り、オフィスも借りました。そして半年後、やっとアプリが完成し、満を持してリリースしました。しかし、3ヶ月経っても半年経っても1年経ってもユーザーは増えず、毎月のオフィス賃料、借金の返済、自分自身の生活費が重くのしかかります。このままでは死ぬと思った起業家は、知り合いの社長に相談し、その会社の営業マンとしての仕事を頂くことでなんとか凌ぐことになりました。

彼の失敗はどこにあるのでしょうか。それは、外れたときのことを考えずに、いきなり大きな勝負に出てしまったことにあります。前述の通り、ビジネスはセンスや気合いなどといった「自分自身のこと」だけではどうにもならない世界です。やってみて分かることがたくさんあるのです。

では、彼はどうすれば良かったのでしょうか。借金をせずに、会社も辞めることなく、オフィスを借りることなく、ノーコード開発アプリ(プログラミング言語が書けなくてもアプリを作れるサービス)を使ってアプリをリリースすれば良かったのです。そして、宣伝広告費に対するユーザー新規登録率や課金率、離反率、良く使われる機能や全然使われない機能、などを確かめるのです。お金をかけるのは、そのような事実の蓄積から「お金をかければ勝てる」ということが分かってからで遅くなかったのです。

世に蔓延る起業のイメージに惑わされるな

失敗を経験した起業家であれば、上記のことは良く分かっているはずです。しかし、起業未経験者や情報が限定されている若者においては、「起業=リスクをとって大きく勝負するもの」という世間一般の認識の通りに行動してしまう恐れがあります。それは起業というよりもギャンブルの性質に近いと感じます。

より起業の仕方を学びたいと思う方は、世界的ベストセラーであるエリック・リースの『リーン・スタートアップ』(日経BP)をお勧めします。

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