
◾️著者 山田暁生(外苑ソーシャルアカデミーシニアフェロー・歴史探究クラブ主宰)
カルタで遊びながら、歴史のキーワードが自然に頭に入ってくる「いろはde歴史」という教材が話題になっている。この教材は、楽しく遊んでいるうちに「歴史の重要事項がみるみる頭に入る」というふれこみ。新たな学びのスタイルの提案と言ってもいいだろう。もし評判通りなら画期的な教材だが、果たして実際のところはどうなのか?今回は教育コンテンツを開発している立場から、この教材のポテンシャルを徹底的に検証してみることにした。
素材はオリジナルで開発された歴史カルタ
「いろはde歴史」は、千葉大学教育学部附属教員養成開発センターの松井聰教授が、長年にわたる教師経験の中で開発し、実践の中で改良を重ねてきた教材だという。歴史が苦手な子どもたちでも抵抗なく楽しめるように、遊びながら学べる仕組みをカルタに落とし込んだアイテムのようだ。

どのようなものなのか、早速教材を手元に広げてみることにした。カルタの札は一般的なものよりだいぶ細長い。一枚一枚の札にはそれぞれ異なる時代を川柳調で詠んだオリジナルの歌が書かれている。歌には時代を象徴する重要ワードや人物名が盛り込まれている。時代をギュッと凝縮したような歌である。
歌は全部で48首あるが、それぞれの歌の最初の文字がいろは歌の潤(いろはにはへと‥‥)になっていて、それが「い」から順番に年代の古い順に並んでいる。

最初の歌は
「一万年前 日本列島現れる」
から始まっている。
札は5枚ずつ色分けされており、視覚的にも時代が分かりやすい。なかなかシステマチックで、よく考えられているようだ。
ちなみにこのカルタは中学の社会を想定して作られているので、日本史と世界史の両方の札が混ざっているのも特徴だ。
「遊び道具」としてのポテンシャル

「いろはde歴史」は教材として開発されたものだが、まずはそのポテンシャルを測るために、一度学習という視点を脇に置いて、あえて「遊び道具」としての側面だけにフォーカスして検証してみた。どんな教材も楽しくなければ子どもたちが手に取るものにはならないからだ。製作者の意図とは少し離れた視点かもしれないが、まずはこの「遊び」の側面だけの検証から始めてみた。
実際に遊んでみると不思議な感覚がある。「いろはde歴史」は、通常の「カルタ」と同じように遊べるので、それだけでも十分に楽しいが、特徴的なのは歴史を詠んだ歌が独特の趣を加えていることだ。大人にとっては聞き覚えのある懐かしいワードばかり。ついつい「ああ、四大文明ってエジプト文明、メソポタミア文明、インダス文明、黄河文明か‥‥そうだったなぁ、昔やったなぁ‥‥」と懐かしくなってくる。遠い記憶が引き出されてくる。

一方で子どもたちにとっては授業で聞いたばかりのワードが次々と出てくるため、かなり真剣だ。習いたての内容が出てくるのでつい熱中してしまうようだ。実際に遊んでみると、なかなかゲーム性が高いし、予想以上に笑い声の絶えない時間となった。まずは遊び道具としてのポテンシャルは十分のようだ。
ただ一つ気になったのは札(カード)の耐久性。厚紙のカラー版でも通常のカルタよりは薄い紙でできているので、この点は少し大事に扱った方が良さそうだ。札は手でつかまず、上から押さえて取るルールでやるといいだろう。
肝心の学習効果はどうなのか?

次に一番重要な学習効果の検証に移ろう。「いろはde歴史」にはどんな学習効果があるのだろう。まずこのカルタで遊んでいるうちに気づいたのは、オリジナルの歌にもかかわらず、意外と歌が頭に残ることだ。皆さんにも百人一首の中でなんとなく頭に残っている歌はないだろうか?
「これやこの 行くも帰るもわかれては 知るも知らぬもおおさかの関」
「花の色は 移りにけりないたづらに 我が身よにふる ながめせしまに」
例えばこの蝉丸や小野小町の歌のように、頭に残る歌というのは独特のリズム感があるものだが、「いろはde歴史」の歌の多くも、絶妙に頭に残りやすい。たとえば、
「ほかのムラとの争いおこる 稲作伝播の弥生時代」

あるいは、
「国替 減封 参勤交代 武家諸法度で大名統制」
このように、日本人の身体に馴染んだ和歌や川柳・都々逸のリズムで、テンポよくゲームが進んでいく。しかもそれぞれの時代における最も大事なワードを網羅している。これなら繰り返し遊んでいるうちに、キーワードや連関事項が自然と定着していく。何度もやっていると掛け算の九九のように歌自体を耳で覚えてしまうだろう。おそらく開発者はカルタの製作にあたって、このリズム感を生み出すことに相当注力したのではないだろうか。
さらに学習効率を高めるには?

「いろはde歴史」が遊びながら歴史の重要事項をおさえられる教材なのは確かなようだ。ちなみに歌が書かれた札の表側に対して、裏面にはその時代の重要な人物名やキーワードが書かれており、知識をさらに補足してくれる。松井教授直筆のかわいいイラストつきで、登場人物もどこか楽しげだ。もし札を覚えてしまうぐらい「いろはde歴史」を使い込んだら、次は少しレベルアップして、裏面のキーワードも当てなければならないというルールにしていくのもアリだ。独自の遊び方を考えてみても面白いだろう。学校の先生たちにとっては、生徒のモチベーションを上げ、授業を一気に活気づける強力な補助教材となるはずだ。中学生向けというが、高校の歴史総合や小学校の社会の授業でも使えるのではないだろうか。
ただし、この教材で習得できるのは、あくまでも重要なキーワードと代表的な歴史イベントを大づかみにしていくことである。学習をしっかり進めるには、これを入り口にして知識をさらに深めていくのが賢い使い方だ。まずは「いろはde歴史」を使って歴史を大掴みにし、そこからは時代をより立体的にとらえていく。教科書だけでなく様々なリソースを使って歴史の流れを把握し、大きな物語にしていくと歴史は生き生きと動き始める。
一つ例を挙げながらやってみたい。たとえば、「よ」の札を例にしてみよう。「よ」の札の歌はこうだ。
「よくぞ守った蒙古の襲来 執権時宗18歳」
そして裏面には「元寇」「フビライ・ハン」というキーワードが記されている。

元寇当時の鎌倉幕府のリーダーは第八代執権北条時宗であり、敵である元の皇帝はフビライ・ハン。もちろんこれらは基本事項だ。カルタ遊びで「蒙古と時宗」の両者が不可分な関連ワードなのは頭にインプットされる。
では、元寇とはどんな出来事で、そこからどんな結末に向かうのか?鎌倉幕府にとってどんな意味をもつ出来事だったのか。どんな物語で歴史を把握すればいいか、ひとつの例をやってみよう。
歴史は因果関係と必然性の物語

元寇から90年ほど時代を遡る。1185年、平氏を滅ぼした源頼朝は、同年鎌倉に幕府を開くと、「御恩と奉公」という新しい統治システムを導入した。御家人の領地は幕府がしっかり保証する。そのかわり御家人は戦役などで幕府に奉仕をする。いわば土地を介した契約関係であり、権力で武士を従えていただけの平氏と比べると斬新なアイデアだった。これがひとつ前の「か」の札、「鎌倉拠点に幕府を開く 御恩と奉公 封建制度」の表すところである。

さて、その後しばらくの間「御恩と奉公」のシステムはうまく回り、幕府と御家人の関係は安定した時代が続いた。だが、突然起きた元の侵略が、幕府に危機をもたらす。
元は凄まじい膨張主義の国で、一時はヨーロッパにまで覇権を広げ、周辺国を片っ端から征服していった帝国であった。侵略欲のかたまりのような元軍が九州に襲来したのである。国家存亡の一大事だ。これに対し、鎌倉幕府は「御恩と奉公」のシステムで全国の武士を動員した。御家人たちは九州に馳せ参じたのである。
だが蒙古軍は日本とはまるで戦い方が違い、鎌倉武士たちは大変な苦戦を強いられることになった。それでも若き執権北条時宗のもと、神風にも助けられながら、二度にわたる蒙古の侵略(文永の役1274年・弘安の役1281年)を辛くも退けたのである。これは大陸における元の侵略の凄まじさを考えると、高く評価されてもよい偉業だった。「よくぞ守った蒙古の襲来 執権時宗18歳」である。
しかし、この戦いは国土防衛の戦いだったため、新たに獲得した領土がなかった。それゆえに御家人たちの懸命のはたらきに報いる恩賞(土地)が与えられず、「御恩と奉公」という契約関係が破綻。御家人の困窮が進むとともに幕府への不満がたまり、やがて鎌倉幕府を滅亡に追いやっていくのである。そうなれば、次に頭をよぎるのは、後醍醐天皇の呼びかけによって始まる、足利尊氏や新田義貞らによる討幕運動だ。そこで「いろはde歴史」の次の歌にあたる「た」の歌、
「尊氏義貞北条氏を倒す 後醍醐天皇建武の親政」につながっていくのである。

このように、「いろはde歴史」で遊びつつ、色々調べながら大きな物語を組み立てていくと、歴史はさらに面白くなっていく。もちろん、勉強も格段に進めやすくなっていくはずだ。カルタで遊びつつ、興味や疑問を持ったらすぐに確認できるように、かたわらに教科書や資料集を置いて遊ぶのもいいかもしれない。
歴史が苦手な中学生には使い方次第で大きな武器に!
苦手科目というのは、その科目の面白さが分からないと生まれてしまう。楽しいことは追求しても苦を感じないし、むしろもっと楽しくなっていくのが人の本質。苦手意識を無くすためには、楽しさを知ることこそが問題解決の核心なのだ。
歴史の面白さは、古の時代への憧れや好奇心にほかならない。昔そこに広がっていた街並みを歩く自分を空想したり、かつて繰り広げられた熱い人間ドラマの面白さ。想像力が最大の武器になる。だが、誰もが初めから歴史の面白さに気づけるわけではない。
歴史の面白さは歴史を知ることから始まる。ひとつひとつ知ることで、やがて点と点がつながっていき、物語に文脈が生まれてくる。「いろはde歴史」を大いに活用しながら歴史を整理してみよう。
もうひとつ、歴史を好きになるには、歴史への知的好奇心が大切だ。私たちが本当にタイムスリップすることは物理的に不可能だが、もしそれが可能だとしたら、あなたが訪れてみたい時代はいつだろうか?想像してみてほしい。たとえば江戸の町なんてどうだろう?

ちょんまげを結った人々で賑わう日本橋の表通り。木造の大きな日本橋のたもとには蕎麦と天麩羅の屋台が並んでいる。通りは町人や武士が行き交い、呉服屋や菓子屋、乾物屋、本屋など様々な店に人々が楽しそうに出入りしている。どんな品物が並んでいるのだろう?
そこから下町の深川方面に足を伸ばすのも面白そうだ。庶民の町深川。富岡八幡宮を中心に、商家や長屋が立ち並び、大勢の人々が暮らしている。深川まで行くなら浅利の味噌汁をご飯にかけた深川飯も味わってみたいところだ。両国には見せもの小屋も並んでいる。どんな出し物をしているのだろう?

まだ街灯がないこの時代、夕闇が迫ると人々は提灯を持って歩く。隅田川にかかる黄昏時の永代橋を提灯を片手に行き交う人々。暗い水面にはやはり灯火をかかげた舟が静かに流れていく。なんとも風情のある情勢だ。どこからともなく三味線の音が聞こえてくる……。
もしこんなタイムトラベルができたら、現実のどんな旅行も越える最高の旅先になるはずだ。

あなたはどの時代に行ってみたいだろうか?明治時代の文明開化を迎えた煉瓦づくりの銀座だろうか?新撰組が駆けまわる幕末の京都だろうか?それとも頼朝が作り上げた完成したばかりの鎌倉の街だろうか?‥‥そんな空想が好奇心あふれる学びへと導いてくれるはずだ。まさにこんなロマンを満たすために、私たち外苑ソーシャルアカデミーの「歴史探究クラブ」は、史跡探索ウォークを開催している。

「いろはde歴史」では基本を学びつつ、史跡探索ウォークで驚きとインパクトに満ちたワクワクのタイムスリップを擬似体験すると、歴史は最高の旅になる。あなたもどうだろう?ぜひ様々な時代を旅しよう!
「いろはde歴史」活用のアイデア その① 家庭での活用法

ここからは「いろはde歴史」の活用の仕方を考えてみよう。このカルタは確かによくできている。しかし当たり前のことだが、繰り返し使わないと威力を発揮できない。遊べば楽しいし、自然と頭にも入ってくるので、まずは「いろはde歴史」を手元に置き、使うチャンスを沢山作ることが活用の最大のポイントになるだろう。
まず、「うちの子は歴史が苦手だ」というのであれば、夕食のあとの団欒でひと勝負というのはどうだろう?家族でカードゲームをするような時間が失われている現代。このゲームをきっかけに家族の時間が生まれ、会話が生まれること自体が貴重な時間となる。歴史の勉強と兼ねられるなら一石二鳥というところだ。遊びの中で、「薩長同盟って何?」と聞かれたら、歴史好きのお父さんの出番だ。
「いろはde歴史」活用のアイデア その② 学校での活用法

「いろはde歴史」の学校での活用は間違いなく効果が高い。たとえば給食後のお昼休み。生徒たちが自由に遊べるように、各教室に2〜3セット置いておき、生徒たちが遊び道具として自由に使えるようにしておく。もちろんあらかじめ社会の授業のなかで実践し、しっかりとゲームの面白さを生徒たちと分かち合っておく必要がある。それはそれで生徒たちに大好評の授業になるはずだ。
40人クラスで授業実践するなら8〜9セットもあればいい。カルタはダウンロードできるので、同一の学校内であれば何セットでも量産可能だが、授業で使うならカラー版の厚紙札を使う方がいいだろう。(※問い合わせてみたところ、カラー版のカルタ札は1セット500円で頒布しているとのこと。ただし数量が限られているので、在庫がなくなったら一旦入手できなくなるようだ)。
全クラスで授業実践した後は、カルタセットを学年の各クラスに分配する。生徒が自由に使う札はダウンロードで量産するのがいいだろう。ちなみに「昼休みにカルタやろうぜ!」と呼びかけるリーダーを指名したり、ジャンケンで勝った者が歌を読む役割をするなど、あらかじめルールを決めておくと生徒間での自然な活用が進みやすくなるのではないだろうか。
もうひとつ、先生にとってこの教材が便利なのは、簡単な穴うめテストが付属していることだ。先生は「いろはde歴史活用ブック」についている問題を印刷するだけで、簡単な小テストが実施できる。しかもこの確認テストは歌の穴うめのため、思い出せないと意外と悔しく、必ず確認したくなる。この点、復習につなげやすい教材だ。毎年繰り返し使える教材なのに非常に安価なのもいい。授業で使うカラーのカルタ札は活用ブックとは別売りだが、こちらも紙版の書籍で2,486円と安く買うことができるし、生徒に自由に使わせる札はダウンロードで量産ができてしまう。しかもダウンロードできるのは下地が白く、インクコストがかからない light 版。学校ごとに活用ブック1冊以上購入することが原則とのことだが、活用ブック1冊とカラー盤のカルタを10セット購入しても一万円もかからない。これで子どもたちが喜ぶのだから導入しない手はないだろう。
まとめ
今回は教材開発者の立場から「いろはde歴史」という教材を取り上げてみた。「いろはde歴史」は遊びながら学べるなかなか優秀な教材だ。遊び道具と勉強道具の垣根がないので、勉強をしているという圧迫感がない。教師や保護者がこのツールを使う機会をうまく作って繰り返し遊ぶことさえできれば、まさに楽しみながら重要ワードが頭に入る「魔法の教材」となりえるだろう。学校はもちろん、ご家庭でも使う価値があるツールである。
細かい活用の仕方については「いろはde歴史活用ブック」が参考になるほか、YouTube動画も公開されている。こちらは教育関係者向けなのか少々地味な動画ではあるが、さまざまな活用の仕方が網羅されている。またアプリも開発が進み、まもなくリリースされる予定のようだ。
まずは「いろはde歴史」を入手して、子どもたちと遊んでみてはいかがだろう?夢中になるのは、意外と大人のあなたかもしれない。
▪️いろはde歴史 活用ブック
著者 松井聰 / 出版社 明治図書
価格 紙版書籍 2,486円(電子版もあり)/カラー版カルタ札1セット(札のみ/厚紙)500円


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