イギリスの食文化 美味しくなった料理と珍しい食材

皆さんこんにちは。外苑ソーシャルアカデミーの山田です。オクスフォードでの研究調査がいよいよ始まりました。またGSAの特別プロジェクトも同時進行で進めています。プロジェクトの内容は、少し先になるかと思いますが、いずれお話しできればと思います。

さて、今回からは少しくだけた話もしていきたいと思います。皆さんはイギリスといえばどんなイメージを持つでしょうか。伝統や格式、王室や貴族、ブランドや有名店などのイメージからおしゃれな雰囲気を感じる人も少なくないかと思います。

一方で昔から問題になっているのが、イギリスの食生活。イギリスの食事といえば、昔から不味いというのが定評で、強いていえば朝食が一番美味しいとよく言われました。しかしそれも、カロリー満点のフルイングリッシュブレックファーストのことを指しており、大味で塩辛く、脂っこいというイメージを持つ人も少なくないだろうと思います。

フルイングリッシュブレックファーストというのは一種の朝定食とでも言うべきもので、こんがりグリルしたベーコンとイングリッシュソーセージ(日本でよく食べるプリっとしたドイツ式ソーセージとは別物の、パン粉やハーブなどが混ざったもっと柔らかいソーセージで、大きさは概ねフランクフルトくらい)、ベイクドビーンズ、ブラックプディング、グリルしたマッシュルームとトマト、それに卵(目玉焼きかスクランブルエッグが多いが、少し洒落たところだとポーチドエッグも選べたりする)などが一皿に盛り合わせになったパブの定番メニューです。

ただし朝食が一番美味しいとはいえ、多くの場合は決して感動するような美味しさとは言えず(まったくの例外もあるのですが)、まあ見た目通りの味を少し塩辛くしたものを想像していただければいいかと思います。

どうやらイギリスでは古くから、食べ物の美味い不味いなどということに関心を持つことは低俗な振る舞いに入り、紳士的な態度ではないという考え方があり、敵国フランスのように美食を追求するような文化は育まれなかったと思われます。パサパサした食パンに一切れのハムと酸味の強いチェダーチーズを挟んだだけのサンドイッチ(つまり飲み下すのに苦悶するような、殺風景でまったくもって美味しくない)などで簡単に昼食や夕食を済ませるなどということは、今でも比較的一般的なことなのです。かつて私がホームステイしていた家などはひどいもので、朝食も一貫してコーンフレークだけでした。

しかしこれからイギリスに向かうという人は、決して恐れることはありません。なぜなら近年、イギリスのレストランの食事は全般的にかなり改善されてきているからです。「あれ!?不味くないな、いや、もしかして美味しいんじゃないか?」と思うことが度々。なにしろこちらは不味いもの漬けの時代にイギリスにいたものですから、ハナから疑ってかかる頭になってしまっているのです。ところが最近は肩透かしを食らうことが多い。

例えば、イギリス料理といえば、サンデーローストもその代表格の一つ。イギリスでは日曜日になると、各家庭でローストビーフやローストチキンなどの塊肉を焼いて食べる習慣があり、これはパブなどでも気軽に食べることができます。パブによって肉の質や焼き加減が変わり、上からかけるグレービーソースの味も違います。

ところでサンデーローストの付け合わせといえば、ヨークシャープディングと茹で野菜が定番です。ヨークシャープディングというのはシュークリームの皮のお化けのようなものなのですが、これまた店によって焼き加減や質感がかなり違います。昔は肉が貴重だったため、肉代わりに食べていたようですが、グレービーソースをたっぷり浸して食べると、とても美味しいものです。

問題はもう一つの付け合わせである茹で野菜。味も歯応えもまったくない水っぽい野菜です。これはどうやら相当な時間をかけて念入りに茹で抜かれたものと思われ、歯応えはまるで失われ、色が褪せており、野菜本来の味わいなどというものは余韻すら残っていません。しかもスープストックなどは使わず、本当に水だけで茹でただけのものと思われ、したがって何の味もしないので、テーブルにある塩をしっかり振らないと食べられません。イギリスの人たちがなぜこうした野菜達を長時間茹でて食べるのか、どうやら衛生観念もあるようなのですが、サッと茹でることを誰も試さなかったのでしょうか。常識や固定概念というのは恐ろしいものです。

ところがこの茹で野菜、最近はどこに行ってもシャキシャキしたものに変わってきました。どうやらイギリスの人々は、歯応えを残し、野菜の甘みが抜けない程度に茹でることを学んでいるようなのです。中にはグリルした野菜をたっぷりつけてくれるパブも出て来ました。

もちろん素材としてのイギリスの野菜自体は決して不味いものではないので、適切な料理すると非常に美味しいものが多いのです。とはいえ、今でも味が全くついていないのは変わらないのですが。

今日はイギリス料理は不味いという定評を覆すべく、いや、まだ覆すことまではできそうもありませんが、素性としては決して悪くないイギリスの美味しい「素材」をいくつか紹介してみたいと思います。

こんなふうにマーケットの青果店には新鮮な商品がたくさん並んでいます。中には見覚えのないものもあるんじゃないかと思います。

まずはこの白い人参のような野菜。見たことあるでしょうか?

これはパースニップというセリ科の野菜です。ローストして塩を振ると、ちょっと人参のような風味と、ホクホクした食感、そして甘みがあって、とても美味しい食材です。普通の人参よりもしっかりしていて、少しだけ繊維があり、わずかに芋寄りの食感。私は日本では一度も見たことがありません。最近のイギリスではローストビーフの付け合わせなどにグリルしたものがついてくることがあります。塩を振るだけでも茹で野菜なんかよりずっと美味しいので、定番にすればいいのにと思うほどです。

さて、次はこれ。

ご存知の方も多いと思いますが、これはブラックベリーです。この写真はブラックベリーの畑や、誰かの庭ではありません。ブラックベリーはスーパーにも売っていますが、これは河岸に自生しているもの。イギリスには公園や河岸、庭先や道端まで、野生のブラックベリーがいたるところに生えています。スーパーに売っているものの方が実は少し大ぶりですが、味はそれほど変わりません。夏になると、イギリスの人々が道端に生い茂るブラックベリーのなかから、真っ黒に実った果実を摘んで集める姿が見られます。赤いものは硬くて酸っぱいので、黒くて艶のある果実を選ぶのがコツです。散歩のついでに何個か摘んで、そのままパクリと食べている人たちもいますが、私はよく洗って食べるようにしています。

次はこれ。りんごですね。

でも少し形が違うのがわかるでしょうか。これはクッキングアップルというずんぐりした加熱専用のリンゴで、ブラムリーとよばれています。酸味が強く、硬いので、そのままでは美味しくありません。生の状態ではカチカチでとても酸っぱいですが、砂糖を入れてサッと煮るだけで、あっという間にとろけていき、甘酸っぱいとても美味しいジャムになります。日本の生食用のリンゴでは甘すぎて、ひたすら甘いだけのジャムになりますが、ブラムリーはこの強い酸味が魅惑的な甘酸っぱさをつくりだします。ジャムだけではなく、アップルパイやアップルクランブルというデザート、また肉料理のソースなどにもよく使われます。

そしてブラムリーと同じような使い方をするのが、これ。

ルバーブです。最近は日本でも比較的手に入るようになりました。見た目はセロリの軸とかフキの茎のようですが、これも恐ろしく酸っぱい食材です。茎を食べるので、感覚的にも学術的にも野菜に分類されるべきものですが(農学的に果物というのは木になる果実のことをさします。ですから学問的にはイチゴも果樹学ではなく蔬菜学で扱われており、つまりは野菜の仲間として分類されています)、このルバーブ、イギリスでは果物売り場に売っています。これも大量の砂糖とともに煮ると、まさに果物だというほかない味になるからです。それもとても気品のある甘酸っぱさの美味しいコンポートになります。作り方はとても簡単。大量の砂糖と一緒に鍋に入れ、焦がさないように5分から10分ほど煮るだけ。水は使いません。スーパーなどで見つけたらぜひやってみてください。この見た目からはちょっと想像できませんが、味はまさしく果物そのものです。パンに乗せて食べてもとても美味しいです。

最後に変わり種をひとつ。

お分かりですよね。これはいわゆるザリガニで、イギリスではクレイフィッシュとよばれています。釣りをしていたときに、通りすがりのイギリス人と話をしていて教わりました。生きたクレイフィッシュは超レア食材ですが、もし手に入ったら、しっかり茹でて(こちらは寄生虫がいる可能性があるので、しっかり火を通すことがとても大事です!)、身を外して醤油をほんのちょっと垂らして食べると本当に美味しいです。すでに茹でられたものがスーパーでも売っていますが、残念ながらこれは味が抜けていて美味しくありません。

ただ、日本のザリガニとは種類が違います。

今回はイギリスの食材についてお話しました。ここではほんの一部しか紹介しませんでしたが、他にも果物や肉類、お酒のつまみや魚、スイーツから飲み物まで、実はイギリスには美味しい食材が山のようにあるのです。本ホームページでは、スイーツやお酒、パブなどを紹介している記事もありますので、ぜひ参考にしてくださいね。

またイギリスについてご質問があれば何でもお答えしますので、ぜひ定例講座のときにでも直接質問してください。ちなみに、よく講座に参加されている方から、「イギリスに留学したいんですけど、ホームステイと学生寮のどっちがいいですか?」と聞かれます。私はどちらも経験していますが、イギリスの場合であれば個人的には学生寮を推薦しています。イギリスのホームステイは民泊ビジネスなので、必ずしもイギリス人の生活が見えるとは限らないのと、ホスピタリティーも当たり外れが大きく、多くの場合必ずしも良くありません。食事も当たり外れがとても大きいです。また、キッチンがあればこのように見たことのない様々な食材を試すことができます。寮には共同のキッチンがあって、料理をすることができるのです。ただし寮の方が料金は割高になります。他にも理由がいろいろありますが、詳しくは講座やアフターミーティングで私に直接聞いていただければ丁寧にお答えします。この件に限らず、イギリスや留学に関することは何でも聞いてください。外苑ソーシャルアカデミー(GSA)の定例講座は原則月一で開講しています。大人から高校生まで、学びたい気持ちさえあればどなたでも参加できますので、ぜひお気軽に足を運んでください。留学や旅行の相談、キャリア形成の相談なども受けています。GSAは、高校教諭と会社経営者がタッグを組んだ産学連携の新しいスタイルの機関です。私たちは大人たちに「学びのワクワク」をお届けする学校。国学院大学渋谷キャンパスでほぼ毎月開催しています(定例講座の内容や日程・教室などの詳細は本記事のホーム画面をご覧ください)。

お酒やスイーツのコラムばかりでなく、異文化体験をドンと深める講座もおこなっています。イギリスファンの方や、食べることが大好きな方、変わった食材に興味がある方、異文化に興味のある方は、このホームページが情報の宝庫なので、覗いていってくださいね!

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