「教養の習得術」知の領域を無限に広げるための考え方

こんにちは。外苑ソーシャルアカデミーの山田です。今回は「幅広い教養の身につけ方」というテーマでお伝えしたいと思います。様々な分野におよぶ深い教養は、多くの人が身につけたいと憧れることの一つだと思います。この世の中のあらゆることを知り、膨大な知識を駆使してものを考えることができれば、見える景色も変わるのではないか、そう思ったことはありませんか?それは確かにその通りだと思います。しかし、ただがむしゃらに勉強するだけでは、”使える教養”はなかなか身につきません。単純に知識を増やすだけではなく、どのように情報を整理し、情報どうしの連関性をもたせるのか、知識網として体系化されていなければ、思考するときに引き出しからすぐに取り出せないからです。ここでは、広い教養や知識を持つ人の思考の仕方、教養を身につけるうえで大切なポイント、そして広い教養を身につけるための実践的な学び方、教養はどのような構造として形作られるかといったテーマについてお伝えしていきたいと思います。

何でも知っている人は何が違うのか

知識がとても多い人、広く何でも知っている人というのは、とても魅力的ですよね。あらゆることに深い知識を持ち、どんな話題にも話を合わせていくことができる。膨大な知識の中から、瞬時に必要な情報だけを引き出してこられる。こういう人は私たちの目にとてもスマートに写ります。ただカッコいいだけではありません。広い知識を駆使して人生を生きていますので、より多角的にものを見ることができ、この世界をよりクリアで彩りある世界として捉えています。知識が多いと世界の見え方まで変わってくるんですね。当然人とは異なるいくつもの角度でものを見ることができます。

それにしても、一体彼らはどんな脳みそをしているのだろう、どれだけの記憶力があるのだろうと思いますよね。きっととても頭が良くて、一度目を通したものはすぐに記憶してしまうのだろうなと。頭のつくりがそもそも違うんじゃないかと思うかもしれません。確かにそういう人も稀にいます。ただ、そのような特殊能力を持つ人はどちらかと言えば少数派で、多くの人は記憶力そのものが特に優れているわけではありません。ただし、頭の使い方や行動パターンが情報を集積するために最適化されているのです。また物事の理解や整理の仕方が上手いという特徴があります。記憶力や記憶容量は普通の人と同じ。ただし思考回路が普通とは違います。

まず、彼らの行動原理の一つ目は、何か面白いことはないかと常に広くアンテナを張っているということです。面白いことに反応するのは誰でも同じですが、普通の人は、アンテナの設定範囲が狭く、自分が関心のある領域のことにしか網を張っていません。例えばターゲットゾーンは日々の生活のこと、遊びに関すること、オシャレなカフェ、バイト、恋人、友達と遊ぶこと、就職など、いわゆるプライベートゾーンだけ。これでひとまず満足なので、それでいいやと思ってしまう。これでは知識は増えるわけがないですよね。

しかし彼らのアンテナはもっとずっと広く張られています。自分の身近なテリトリーの外側にも面白いことがないか、これまで自分が何の関心も持っていなかった分野にも面白いことはあるはずだと考えます。

知らなくても別にいいやとは考えない。機会があれば話を聞いてみよう、まずは覗いてみようと考えます。そして彼らは嗅覚が鋭いので、なにか面白そうなことが埋まっている臭いがすれば見逃しません。すかさず当たりをつけて掘り起こしてみる。面白そうだと感じられるものが出てきたら、丁寧に磨いてみる。すると思った通り、輝き始める、ダイヤの原石を見つけたようなものです。それをさらに丁寧に磨いて、その面白さの全てを自分のものにしようと考えます。この世界のあらゆる面白いことを知り尽くそうとする思考回路がデフォルトになっているのです。これは学問でも変わりません。面白いから勉強するわけだし、だからこそ続く。そして楽しいからしっかり頭に残る。面倒くさいという気持ちは最初から知識を吸収する力がなく、自分の可能性を狭めてしまいます。ワクワクする気持ちがないと、教養もものにならないし、人生も成功しない。ますばアンテナを外に向け、物事を面白いと思えること、そして面白いことは何でも自分のものにしようと思う姿勢が大切です。要するに教養がある人というのは記憶力のスペックが高い人ではなく、能動的に学ぶ姿勢ができている人だということだと思います。言い換えれば、これは生まれつきの才能ではなく、自分の在り方次第でそうなれるということです。

学びのモチベーション 「問題意識」の果たす様々な役割り

一方で、あまりあちこちに関心を分散させてあれこれ手をだしてしまうと、これまたモノになりません。アンテナを広く張ることは大事ですが、これをやると決めたら一定期間、腰を据えて一つのことに取り組み続けることも非常に大事な姿勢です。一つのことにじっくり取り組み、ある程度モノにしてから次にとりかかる。中途半端にあれもこれもとやっていると、結局どれも表面的な知識で終わってしまいます。

面白いものをどんどん探す視線が大切だと言いましたが、無秩序に探し回ればいいということではありません。ここでもう一つの軸となる極めて大事なファクターが現れます。それは「問題意識」です。自分が何を知りたいのか、何を解決したいのか、明確な問題意識に貫かれた軸の中でヒントになりそうなものを探していく。テーマを持つことは思考や探求の指標であり、それがあるから嗅覚も働くのです。それに、これに取り組めば解決するかもしれない、何か分かるかもしれないと思うからワクワクする。それが勉強を一段と面白くすると思います。

こうした考え方に沿って取り組んでいくと、問題意識を中心に次第にテリトリーが広がっていきます。たとえば日本文化とは何か、日本にはどんな独自性があるのかを知りたいと思ったとします。そこでまずは日本にどんな文化的な特徴があり、それを象徴する伝統催事があるか、関係書籍を読んでみます。まずは日本の祭りや宗教行事、伝統催事や神話などを勉強してみたとします。これで確かに日本のことに少し詳しくなります。しかしそれだけでは日本の独自性が浮かんでこない。では次に何を見ればいいのだろう。日本の独自性を知るには他との比較が必要だ。そこで日本と同じく多神教社会だった古代ローマをじっくり勉強してみる。日本との共通性と違いがいくつも現れる。それでは次は、日本と同じく伝統を大切にしていて、しかも同じ島国、でも一神教の国であるイギリスの伝統文化に取り組んでみる。それがある程度形になってきたら、今度は一神教社会について一から勉強してみる‥‥。このような感じで学びを進めることで、比較をするための対立軸が生まれます。こうしたことに一つ一つ取り組んでいくことで、他との違いが見えてくる。日本にはどんなユニークな面があるのかを浮き上がらせることができる。ここでは、日本の祭事、古代ローマ、イギリス、キリスト教と異なることを勉強していますが、これらは「日本の独自性を知りたい」という一つの問題意識に貫かれた学びなのです。一つの問題意識のもとで探求していくことで、問題の本質に迫りながら、テリトリーが少しずつ広がっていきます。自然に分野どうしの連関性も形作られていくのです。

教養というのはこうした問題意識のもとで広げていくのが絶対に良いと思います。岩波文庫を片っ端から読んでいくようなやり方は個人的にはあまりお勧めしません。自分の明確な関心事に貫かれた学び方をする方が、興味も深まり、思考の軸が定まるからです。迷子になったときにも、この軸に立ち戻ることで、自分は何を知ろうとしていたのかという現在地を把握し直すことができるのです。

お分かりでしょうか。問題意識は学びを面白くするモチベーションであり、同時に学びを広げていく座標軸の役割も果たしているのです。

複数の思考軸をもち、教養を体系化する

自分のなかに確固とした「問題意識」を持つことで、学びが深化して本質に迫ることができること、そして知のテリトリーを広げつつ連関性が作られることを説明しました。こうすることで、問題意識周辺のテーマを一つずつ習得し、体系化していけるでしょう。しかしこれだけだと、どうしても得意分野が偏ってしまいます。できれば全く違う分野に別の軸を持つことをお勧めします。思い切って理系分野に振ってみるのも一つのやり方です。

例えばコロナを例に考えてみましょう。新型コロナウイルスとは一体何だったのか。まずはそもそもコロナウイルス群とはどのような存在なのか。コロナウイルス群はこれまでにもMersやSarsといった流行感染症をもたらしてきました。例えばこうしたコロナウイルスというグループの概要を知るところから勉強を始めたとします。次に人類が直面してきた感染症の歴史。ペストや天然痘、コレラなど、人類はどのような感染症に苦しめられてきたのか。そして次にPCRという検査方法について。PCR法というのはDNAと酵素の仕組みを巧みに利用した分析方法です。PCR法ではどのような原理でウイルス感染を検出しているのか。さらに、近未来に世界に広がることが危惧されている感染症にはどのようなものがあるのか。こうしたテーマも同じように一つ一つ取り組んでいくことで、理系分野にも教養のネットワークが形作られます。同じように、思想、経済、先端科学、環境‥‥などなど、いくつかの軸を作っていくといいでしょう。

教養はこのように複数の軸を持つことで立体化され、やがてそれらの間に連関性が形作られていくのです。例えるなら一つの銀河にいくつもの星があり、そうした銀河がいくつもあるようなイメージです。そして銀河どうしにもつながりができてくる。つまり教養とは様々なテーマがただ横並びに羅列されたものではなく、もっと立体的な知の連関網なのです。

いかがでしたでしょうか。今回お伝えして来たことは、まとめると以下のようなことです。

●プライベートゾーンを超えて、あらゆることを学びとりたいという姿勢が死活的に重要。

●興味を分散させすぎず、一つのテーマを習得するまでじっくり腰を据えて取り組む。

●一貫した問題意識を通じて、連関的に学びのテーマを広げていく。

●複数の問題意識の軸を持つことで、教養のの銀河的ネットワークを構築する。

もちろん広大な教養を身につけることは、一朝一夕にできることではありません。しかし、だからこそ教養には価値があるのであり、こうした教養のネットワークが徐々に形作られれば、世界の見え方まで変わって来ます。そして人生が格段に面白いものになるでしょう。「効率的な読書術」の中でもお伝えしましたように、「3時間でわかる哲学」のようなインスタントな本では、結局なに一つ得ることはできません。千里の道も一歩からです。それに何といっても、地道に取り組む過程こそが一番楽しいのですから、ぜひ一歩ずつ確実に足元を固めていきましょう。今回お伝えしたことがらみなさんが学びを進めていくうえで、努力が無駄にならず、正しく知の体系を築き上げていく助けになれば幸いです。

なお、本の読み進め方については「効率的な読書術」の前編を、知識の定着のさせ方については同じく後編をぜひ参考にしてください。学びの理解度も定着度も格段に上がることと思います。

外苑ソーシャルアカデミーの定例講座のリベラルアーツ講座では、毎回異なるテーマに向き合っていきます。そこでは私から皆さんに問題を投げかけます。そして受講したあと、皆さんがじっくりとそのテーマと向き合えるように、入り口をしっかり解説し、無理のない推薦図書もお伝えします。毎回ご出席いただくことで、次第に教養のネットワークごできてくるはずです。ぜひ幅広い教養を構築していくお手伝いができたらと思います。

11月の定例講座は11月24日(金)18時開講です。リベラルアーツ講座は、【異文化や異なる宗教にどのように向き合えばいいのか、「宗教学超入門」】というテーマでお話しします。キリスト教は一度は取り組まなければならない重要なテーマです。キリスト教をテーマにする回はこの先当分ありません。どうぞ機会を逃さないようにしてください。またお気軽にご参加ください。予約制ですので、お申し込みはホームページから。席に限りがありますので、お早めのお申し込みをお勧めします。

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